小児矯正と機能訓練 ― 早期介入で変わる成長経路
はじめに:歯並びの問題は“成長の中で整う”は本当?
「子どもの歯並び、いずれ整うだろう」と思っていませんか?確かに、乳歯から永久歯への生え変わりの過程で自然に改善するケースもありますが、近年では食生活や口腔機能の未発達、口呼吸などが影響し、自然には整わない歯並びの子どもが増えています。本コラムでは、成長期の歯並びの問題に対して早期に対応する「小児矯正」と「機能訓練(MFT)」の重要性について解説します。
小児矯正とは何か ― 大人の矯正との違い
小児矯正とは、主に6歳から12歳の成長期に行われる歯列矯正のことを指します。大人の矯正が「すでに完成した歯列の移動」であるのに対し、小児矯正は「顎の成長をコントロールする」ことが目的です。顎の成長を正しい方向に導くことで、歯がきれいに並ぶスペースを確保したり、将来的な抜歯や大がかりな矯正治療を回避できる可能性が高まります。
口腔機能と歯並び ― 噛む・飲む・呼吸するの連動
歯並びは、単に歯だけの問題ではありません。舌・唇・頬などの筋肉の使い方、噛み方、飲み込み方、呼吸の仕方といった「口腔機能」が密接に関わっています。特に「口呼吸」は歯並びに大きな悪影響を与えるとされており、上顎が十分に発達せず狭くなり、前歯の突出や開咬を引き起こす原因になります。
機能訓練(MFT)の役割とは?
MFT(口腔筋機能療法)は、舌・唇・頬・顎などの筋肉の正しい使い方を習得する訓練です。歯並びの乱れは、多くの場合、誤った舌の位置や呼吸習慣が原因であり、矯正装置だけでは根本解決ができません。MFTでは、舌の正しい位置、鼻呼吸の習慣化、嚥下や発音の正常化などを通じて、歯列を安定させる土台を作ります。
早期介入のメリット(顎の成長誘導、抜歯の回避など)
成長期の子どもにとっての最大のメリットは、「骨格がまだ柔らかく、誘導しやすい」という点です。上顎や下顎の成長方向を正しくコントロールすることで、将来的に抜歯や外科手術を必要としない自然な矯正が可能になります。また、子ども自身が治療に慣れやすく、習慣の修正がしやすいのも早期介入の利点です。
よくある誤解とその背景
「永久歯が生えそろってから治療した方が効率が良いのでは?」という考え方は今も根強くありますが、これは一部正しく、一部誤解です。歯の生え変わりを待ってしまうことで、骨格的な問題が固定されてしまい、より大がかりな矯正が必要になることがあります。また、悪習癖が固定化され、口呼吸や舌癖が改善しにくくなるリスクもあります。
保護者が気付きやすい“早期介入が必要なサイン”
– 口がポカンと開いている(口唇閉鎖不全)
– 食事中にくちゃくちゃ音を立てる
– 舌を前に突き出す癖がある
– いつも猫背で、姿勢が悪い
– 発音が不明瞭で聞き取りにくい
これらのサインは、口腔機能の不全や歯並びの問題につながる可能性があります。早期のチェックと対処がカギとなります。
歯科医院での診断と指導の流れ
歯科医院では、まず視診や模型、レントゲン撮影などを用いて顎の大きさ・歯の位置・噛み合わせなどを確認します。加えて、舌の動きや呼吸の状態、姿勢、筋肉の使い方なども総合的に評価し、必要に応じて矯正装置やMFTの提案を行います。
小児矯正と機能訓練の具体例
– 拡大床:上顎を拡げるための装置で、狭い歯列を改善
– マウスピース型矯正:取り外し可能な装置で、子どもの負担が少ない
– MFT:舌の体操、発音練習、呼吸訓練などを通じて歯列を支える筋肉を強化
これらを組み合わせることで、より自然で安定した矯正効果が期待できます。
まとめ:子どもの成長力を生かすなら“今”が大事
小児矯正と機能訓練は、単に歯並びを整えるためのものではありません。子どもの成長力を最大限に生かし、将来の健康や自信、学力や集中力にまで良い影響を与える「予防的な医療」としての側面を持っています。保護者が「今」気づき、歯科医院でのチェックを受けることで、お子さまの未来は大きく変わるかもしれません。歯並びに限らず、お口まわりに気になる癖やサインがある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。