「乳歯が抜けない…?」そのまま放置していませんか? ― 乳歯晩期残存のリスクと歯科的対応
「もう中学生になるのに、まだ乳歯が残っている」
「下の永久歯が生えてきているのに、乳歯が抜ける気配がない」
そんなご相談を歯科医院では少なからず受けます。このような状態は「乳歯晩期残存(にゅうしばんきざんぞん)」と呼ばれ、子どもの歯の発育において注意すべき現象のひとつです。
永久歯の萌出時期には個人差がありますが、予定の時期を大きく過ぎても乳歯が残存している場合には、歯列不正・噛み合わせ異常・永久歯の異常萌出など、将来の口腔環境に大きな影響を及ぼすことがあります。
本コラムでは、乳歯晩期残存の原因やリスク、歯科医院での対応、そして保護者が日常生活の中で気付くべきサインまで、詳しくご紹介します。
第1章:乳歯晩期残存とは?
■ 1-1. 乳歯の通常の生え替わりとは
乳歯は全部で20本あり、生後6ヶ月頃から生え始め、3歳頃までに生えそろいます。これらは6〜12歳頃にかけて順次抜け、永久歯へと生え替わります。永久歯は親知らずを除き28本あり、歯の生え替わりは以下のような流れで進行します。
永久歯の種類 | 萌出時期の目安 |
---|---|
第一大臼歯(6歳臼歯) | 6歳ごろ |
中切歯(前歯) | 6〜7歳 |
側切歯 | 7〜8歳 |
犬歯・第一小臼歯 | 9〜11歳 |
第二小臼歯 | 10〜12歳 |
第二大臼歯 | 12歳前後 |
■ 1-2. 晩期残存とは?
この生え替わりの時期を大幅に過ぎても乳歯が抜けずに残っている状態を、「乳歯晩期残存」といいます。具体的には、12歳以降になっても乳歯が口腔内に残っている場合、歯科的には晩期残存の疑いとして精査対象となります。
必ずしも病的とは限りませんが、**永久歯が正常に生えてこられない「萌出異常」や「埋伏(まいふく)」**の原因となることがあるため、注意が必要です。
第2章:乳歯晩期残存の原因
乳歯が長く残る背景には、以下のようなさまざまな原因があります。
■ 2-1. 永久歯の欠如(先天性欠如)
もっとも多い原因がこれです。永久歯の「種」がもともと存在しない場合、当然ながら生え替わる相手がいないため、乳歯が抜けずに長く残ります。日本人では第二小臼歯・側切歯に先天欠如が多く見られます。
近年では10人に1人以上の割合で、1本以上の先天性欠如が報告されています(厚労省調査より)。
■ 2-2. 永久歯の萌出異常・方向異常
永久歯が本来の位置に向かって正しく萌出してこない場合、乳歯が刺激を受けず、自然に抜けるきっかけを失ってしまいます。特に犬歯や小臼歯は、斜め方向や歯列外から生えることも多く、注意が必要です。
■ 2-3. 歯列のスペース不足
顎が小さく、歯が並ぶスペースが足りない場合、永久歯が萌出できず、乳歯がそのまま残ってしまうことがあります。
■ 2-4. 歯根吸収の遅れ
通常、乳歯の根は永久歯の圧力によって徐々に吸収され、やがて抜け落ちます。しかし、永久歯の位置や向きの問題でその刺激が弱いと、乳歯の根が吸収されずに長く残ることがあります。
■ 2-5. その他の要因
•早期の乳歯喪失 → 萌出誘導の失敗
•過剰歯 → 永久歯の通り道を塞ぐ
•嚢胞・腫瘍 → 萌出障害の原因となる
第3章:晩期残存が引き起こすリスク
■ 3-1. 歯列不正・咬合異常
乳歯が長く残っていると、永久歯が正しい位置に並ぶことができず、歯列不正(叢生・八重歯・交叉咬合など)や咬み合わせのズレを招くことがあります。
■ 3-2. 萌出困難・埋伏歯
永久歯が骨の中に埋まったまま出てこない「埋伏歯」になることもあります。とくに上顎犬歯の埋伏は多く、外科的介入や矯正治療が必要となるケースがあります。
■ 3-3. 永久歯の位置異常
乳歯が抜けずに放置されていると、永久歯が**異常な位置(歯列外・口蓋側など)**に萌出し、見た目・機能ともに悪影響を及ぼします。
■ 3-4. 咀嚼・発音機能の低下
歯列の乱れは、噛み合わせの不安定さにつながり、食事の咀嚼効率や発音明瞭度に影響を与えることがあります。
第4章:家庭で気付けるサインとは?
乳歯晩期残存は、早期に気付いて歯科で対応すれば、リスクを最小限に抑えられます。以下のようなサインを見逃さないことが重要です。
■ 保護者がチェックすべきポイント
•同じ学年の友達に比べて、歯の生え替わりが遅い
•12歳を過ぎても乳歯が残っている
•歯が二重に生えている(乳歯と永久歯が同時にある)
•前歯や犬歯がなかなか生えてこない
•歯並びが乱れてきた
•食べ物を片側で噛む・噛みにくそうにしている
■ 乳歯と永久歯の見分け方
乳歯はやや白く小ぶりで、形も丸みを帯びています。一方、永久歯は灰白色でしっかりした形状です。位置や歯種にもよりますが、不安な場合は早めに歯科でレントゲン検査を受けることをおすすめします。
第5章:歯科医院での対応
■ 5-1. 精密検査(パノラマ・CT)
まずはレントゲン撮影によって、永久歯の有無、位置、方向を確認します。特に先天欠如・埋伏歯・過剰歯の有無を診断することが重要です。
■ 5-2. 残存乳歯の抜歯
永久歯が存在し、適切な位置にある場合は、残っている乳歯を抜歯することで、自然な萌出を促します。
■ 5-3. 萌出誘導(牽引処置)
永久歯が埋伏している場合、外科的に露出させ、矯正装置で引っ張り出す処置が行われることもあります。これは矯正歯科医との連携が必要です。
■ 5-4. 永久歯が存在しない場合の対応
永久歯の欠如が判明した場合、残存乳歯を長期維持するか、矯正・補綴(インプラント・ブリッジ)を視野に入れて歯列全体を計画的に整えることが検討されます。
第6章:予防と定期検診の重要性
■ 乳歯が抜けない=問題、ではありません
成長のペースには個人差があります。しかし、「永久歯があるのかどうか」「生える準備ができているのか」はレントゲンでしか判断できません。
■ 定期検診を通じての早期発見
6歳臼歯が生えるころから、年2〜3回の定期検診を受けることで、萌出異常を早期に発見し、適切なタイミングで介入することが可能です。
まとめ:乳歯の「居残り」は、将来の歯並びの警告信号かもしれません
乳歯晩期残存は、見た目ではわかりにくい場合もありますが、歯列全体のバランスや咬合発育に大きな影響を及ぼすことがある重要なサインです。永久歯の生え替わりは「自然に任せればいい」と思われがちですが、時に歯科的な介入が必要になることもあります。
「乳歯がなかなか抜けない」「生え替わりが遅れているかも」と気になったら、どうかお気軽にご相談ください。当院では、成長発育に応じた適切な診断と対応を行い、お子さまの健やかな口腔発達を全力でサポートいたします。
2025年6月12日 カテゴリ:未分類