成長に影響する“クセ”?― 口腔習癖が歯並びに与える影響とその対策
お子さまの何気ない「クセ」、たとえば指しゃぶりや頬杖、舌を突き出すしぐさ――実はそれらは、成長発育中の口腔に悪影響を及ぼす可能性のある「口腔習癖(こうくうしゅうへき)」と呼ばれるものかもしれません。
口腔習癖は、日常生活に潜んでいて見逃されがちですが、放置すると歯並びの乱れや咬合異常、さらには発音や呼吸にも悪影響を及ぼすことがあります。本コラムでは、口腔習癖の種類や原因、放置した場合のリスク、そして歯科医院での対応や家庭での予防方法までをわかりやすく解説します。
第1章:口腔習癖とは?
■定義と概要
「口腔習癖」とは、口の周囲や舌、あごの筋肉に関連する無意識のくせのことを指します。幼児期から学童期にかけて見られることが多く、発育途上の歯や顎に慢性的な外力が加わることで、歯列や咬合、さらには顔貌の成長にも影響を与える可能性があります。
第2章:代表的な口腔習癖の種類
●指しゃぶり(吸指癖)
もっとも一般的な習癖で、乳幼児期の自己安定行動の一つ。3歳を過ぎても続く場合は要注意。上顎前突(出っ歯)や開咬の原因となる。
●舌突出癖
嚥下や会話時、舌が前に突き出る癖。上下の前歯の間から舌が出てしまう状態で、開咬や発音障害の原因になる。
●口唇癖(唇を咬む・巻き込む)
上下どちらかの唇を咬んだり、内側に巻き込む癖。上下の前歯の傾斜や、噛み合わせのズレにつながることがある。
●頬杖
顔の片側に手を当てて支える姿勢。側方からの持続的な力が加わるため、顎の歪みや非対称を招く。
●口呼吸
鼻呼吸ではなく、常時口が開いた状態で呼吸を行う習慣。口腔乾燥・虫歯・歯肉炎・咬合異常・アデノイド顔貌など、多くの問題を引き起こす。
●爪咬み・鉛筆咬み
緊張や不安を紛らわせる行動の一環として見られる。前歯への過剰な圧力がかかり、破折や傾斜、歯並びへの悪影響が起こる。
第3章:放置することによるリスク
●歯列・咬合への影響
口腔習癖は歯の位置・角度・顎の成長にまで影響を与え、以下のような不正咬合の原因になります:
•開咬(かいこう):上下の前歯が閉じない状態
•上顎前突(出っ歯)
•反対咬合(受け口)
•顎の左右非対称
•歯列のねじれや叢生(歯の重なり)
●顎関節や顔貌のゆがみ
持続的な外力が顎関節に影響し、顔面の左右非対称や顎関節症のリスクを高めます。
●呼吸・発音障害
舌の位置異常や口呼吸の習慣が、鼻づまり・アレルギー性疾患・滑舌の悪さを引き起こすことがあります。
第4章:家庭でできる気付きと対策
●よくあるサイン
•いつも口が開いている
•舌が前に出ている
•頬杖をよくつく
•前歯が閉じない(前歯が上下に離れている)
•唇や指に歯の跡がついている
•発音がはっきりしない
● 家庭でできる対応
•3歳以降も指しゃぶりがある場合は段階的にやめさせる努力を
•就寝時の手袋や絵本による行動変容を活用
•日中の姿勢指導(頬杖を避ける)
•正しい口唇閉鎖・鼻呼吸を意識させる
•食事中の咀嚼や飲み込み方を見直す(舌突出がある場合)
第5章:歯科医院での専門的アプローチ
●咬合診断・口腔筋機能評価
歯並びや咬み合わせ、口腔周囲筋の機能を総合的に診断し、習癖がもたらす影響を評価します。
●MFT(口腔筋機能療法)
舌・口唇・頬の筋肉のバランスを整える訓練療法で、異常嚥下や舌癖の改善に効果的です。継続的なトレーニングが必要となる場合もあります。
●矯正治療
口腔習癖が原因で生じた歯列不正については、小児矯正での早期対応が推奨されます。特に発育段階での骨格改善は、成人後よりも治療の選択肢が広がります。
第6章:当院での取り組み ― 習癖と成長を見守る体制
当院では、「スマイルキッズプログラム」を通じて、乳幼児期から学童期に至るまでのお子さまの歯と口の健康を継続的にサポートしています。
•定期検診時に歯並びや口腔筋機能のチェック
•保護者への習癖に関するフィードバック
•必要に応じた専門的指導・トレーニング提案
•食事・姿勢・呼吸指導を含む総合的なアプローチ
また、矯正専門医(女医)が常勤しており、歯並びの問題だけでなく口腔習癖への対応も専門的にご相談いただけます。お子さまの気になるクセがある、歯並びが心配、口がぽかんと開いているなど、お困りの際はお気軽にご相談ください。
まとめ:早期の気付きが将来の健康につながる
口腔習癖は、単なる「クセ」ではありません。成長発育期における歯や顎、さらには全身の健康にまで関わる重要な因子です。
「まだ小さいから」と見過ごさず、日常の中で違和感を感じたら、ぜひ一度歯科医院にご相談ください。正しい知識と適切な対応で、将来のお子さまの口腔環境を守ることができます。