舌の位置が歯並びを変える? ― 安静時舌位と歯列発達の深い関係
はじめに
「舌の位置で歯並びが変わる」と聞くと、少し意外に感じるかもしれません。
しかし、実際には舌の位置(舌位:ぜつい)は、歯列や顎の発達に大きな影響を与えます。
特に成長期の子どもにとって、舌の正しい位置を保つことは、きれいな歯並びや正しい呼吸・発音を育む上で非常に重要です。
本コラムでは、安静時舌位(舌がリラックスしているときの位置) に焦点を当て、なぜ舌の位置が歯並びを左右するのか、そしてどのように改善できるのかを詳しく解説します。
舌の正しい位置(安静時舌位)とは?
安静時舌位とは、何もしていない状態――つまり「口を閉じて、リラックスしているとき」に舌がどこにあるかを指します。
正しい舌の位置
•舌の先端が上あごの「スポット」と呼ばれる部分(上の前歯のすぐ後ろ)に軽く触れている
•舌全体が上あご(口蓋)に沿ってぴったりくっついている
•唇は自然に閉じ、鼻で呼吸している
この状態を「正しい安静時舌位」と呼びます。
舌の位置が悪いとどうなるの?
舌の位置が下がったり、前に出ていたりすると、歯並びや顎の発達に悪影響を与えることがあります。
舌が下がると…
•上あご(口蓋)の成長が十分に広がらない
•口呼吸になりやすく、口腔乾燥を引き起こす
•噛み合わせが深くなる、出っ歯になりやすい
舌が前に出ると…
•「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」と呼ばれる癖がつき、歯を前方に押し出す
•前歯が閉じない「開咬(かいこう)」の原因になる
•発音が不明瞭になる(特に「さ行」「た行」「な行」など)
舌と歯並びの関係:なぜ影響するの?
歯並びは「舌・唇・頬の力のバランス」で保たれています。
舌が内側から歯を外へ押し出す力、唇や頬が外から内へ押す力が、互いに釣り合うことで歯が正しい位置に並びます。
しかし舌の位置が下がっていると、このバランスが崩れます。
バランスが崩れるとどうなる?
•舌の押し出し力が強い → 出っ歯(上顎前突)
•舌が下がりすぎる → 下顎が後退し、二重あごや口呼吸傾向に
•舌が左右どちらかに偏る → 歯列のゆがみ(交叉咬合)
つまり、舌の位置=歯並びの土台なのです。
舌位が悪くなる原因
1. 口呼吸
口で呼吸をしていると、舌が自然と下がった位置に固定されやすくなります。
2. 舌小帯短縮症
舌の裏にあるヒモ状の組織(舌小帯)が短いと、舌を上に持ち上げにくく、上あごにつけることができません。
3. 幼少期の食習慣
やわらかい食べ物ばかり食べていると、舌や顎の筋肉が十分に発達せず、正しい舌の位置を保ちにくくなります。
4. 姿勢の悪さ
猫背などで頭が前に出ると、舌が下方向へ引っ張られ、口呼吸になりやすくなります。
舌の位置を整えるためのトレーニング
舌の位置は意識とトレーニングによって改善できます。
歯科医院で行うMFT(口腔筋機能療法)は、舌・唇・頬の筋肉のバランスを整えるためのトレーニング法です。
基本的なトレーニング例
1.スポットトレーニング
舌の先を上あごの「スポット」に軽く当てて5秒キープ。これを1日数回繰り返します。
2.ポッピング練習
舌を上あごにつけて「ポン」と音を鳴らします。舌をしっかり上げる感覚を身につけます。
3.ストロー吸引練習
ストローを使って飲み物を吸う練習。舌と口輪筋を同時に鍛えられます。
これらは遊び感覚でできるため、小さなお子さまでも無理なく継続できます。
ご家庭で気をつけたいポイント
•食事中は「鼻呼吸」「口を閉じて噛む」ことを意識する
•柔らかい食事ばかりにならないよう注意する
•姿勢を正して食べる(足裏が床につくように)
•舌を出す・舌で歯を押す癖があれば早めに相談
当院での取り組み
伊皿子おおね歯科医院では、お子さまの舌の動きや位置を定期的にチェックし、
スマイルキッズプログラムの一環として口腔機能の発達をサポートしています。
必要に応じてMFT(口腔筋機能療法)を導入し、舌の正しい位置や動かし方をトレーニング。
また、矯正を専門的に行う女医の矯正医が在籍しており、歯列と顎の成長を総合的に評価しています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 舌の位置は自分で意識すれば治りますか?
一定の改善は可能ですが、筋肉バランスや呼吸の癖が関係している場合は、MFTなどの専門的指導が効果的です。
Q2. 舌が上に届かないのは異常ですか?
舌小帯短縮症の可能性があります。歯科医院で舌の動きを確認してもらいましょう。
Q3. 何歳から舌のトレーニングを始められますか?
3~4歳頃から可能です。成長に合わせた軽いトレーニングで、自然に習慣化できます。
まとめ
舌の位置は、歯並びや顎の発達だけでなく、呼吸・発音・姿勢にも深く関わっています。
「舌が下がっている」「口が開いている」「食べ方が気になる」といったサインが見られたら、
それは口腔機能発達の乱れを知らせる“お口からのメッセージ”かもしれません。
お子さまの将来の歯並びと健康のために、まずは舌の位置を見直してみましょう。
2025年12月4日 カテゴリ:未分類


